オスカー・ギリア
ギターリサイタル2002
 札幌レポート
 静岡音楽館AOIレポート
 北海道新聞社からのインタビュー








〔札幌レポート:2002年8月8日〕

 8月7日、ギリア先生が札幌入りした。S.I.Eの林さん、ギタリストで現在の私の師匠の福田進一先生が同行なさっての来道だ。8日のザ・ルーテルホールでの演奏会のため前日に到着したのだが飛行機の遅れがあった上、ギリア先生のバゲッジは行方知れずになってしまい、大変お疲れだったことと思う。

 コンサート会場にお連れする為、ホテルにS氏とお迎えに上がった。私が予想していた以上に大きかった。体が、というよりはお腹がである。もっとこわい顔をしているのかと思っていたが、大変優しい目をしていらっしゃって穏やかな方であった。よく見るとまだまだお若いお顔なのだ。あどけない少年のような表情をなさる。福田先生が「さちこです」と紹介して下さった。「私はサチコです。お会いできて大変うれしいです」(英語)。「サァ、チィ、コォ。トォテモ、キレイナ、ナマエ、デスネェ」(日本語)。日本語ぺらぺらである。ホールに到着してリハーサルを始めてからホテルに眼鏡を忘れたことにお気付きになった。「メーガネヲ、ワスレマシタネエ。ホテルニ。」「アノー、ベッドノヨコニィ、クゥロォイィハコ、アリマス。ゼンブデ、4ッツ、デスネェ。ゼェンブ、モッテキテクダサイ」。こんだけ日本語をお話して下されば、周りは楽である。

 演奏前の姿が印象的だった。どの曲を演奏する前にも、冥想か精神を集中させるためか、目を閉じ両手をぶらんと下げて約30秒くらいじっとしている。あとで、あれは何をしているのですか?と聞いてみた。すると、頭のてっぺんから足の先までエネルギーを行き渡らせているのだそう。1、2、3と数えながらやるそうで、相当精神統一の訓練を要しそうである。

 車を乗り降りするのも大変なくらいお腹が大きいので、自然といたわりの気持が湧いて来る。夜の打ち上げでタクシーに乗ったときは、先生が乗ったら車が傾いてドアが閉まらなくなってしまい、「お客さん、1回降りてもらえませんか!」と冷たいことを運転手に言われた。やっと乗ったのにまた降りろなんて、非情なことを言う運転手を、つい、睨み付けてしまった。なんとか無事に発車したら、今度は大きな声で歌を歌い出す。タクシーを降りれば繁華街に流れる音楽に合わせて体を揺らす。そんなギリア先生を見ていて、ああ、イタリア人になりたい、と思った。というより、私の内にも存在するイタリア人的要素が騒ぎ出したのだ。それが表に出ないように奥深いところに追いやっているもの、そんな鎧を全て脱ぎ捨ててしまいたくなった。
 ギリア先生の、大きくて骨太の表現力豊かな音楽、大きな身体、温かくて柔らかな手のひら・・・これらは何人をも受け入れようとしてくれる、先生の心の広さを直に感じさせるものであった。自分らしい自分が一番なのだ、と私に教えてくれたような気がする。
            
             「懇親会にて、オスカー・ギリア氏と」
〔静岡音楽館AOIレポート:8月20日〜25日]

2002年8月20日

 新幹線で静岡駅に到着したのはちょうど午後2時頃で、もっとも日ざしの強い時間帯だった。駅の改札口を抜けると、先月行った大阪を思い出すような暑さに襲われた。偶然、駅で大阪の猪居親子(謙君は受講生、お父様は聴講生として参加)と一緒になり、駅前でうろうろしていると、今度はばったり福田先生と大萩康司君、台湾から参加のJimmyに会った。先生の案内でセミナーの会場となる静岡音楽館AOIに到着。

 その後3時から開会式が行われた。受講生の紹介に続いて、演奏レベルを実際に審査する為に、一人2、3分ずつ演奏した。私は受講曲ではなく「ヘネラリーフェのほとり」をダイジェスト版にして演奏した。他の人は皆、受講曲を「はい、もういいです」と言われるまで演奏していた。受講生の大半が私より一回りくらい若い世代である。彼等と共に1週間勉強するのはかなりパワーが必要で、相当自分を鼓舞する必要があると感じた。期間中、聴講して見守って下さる方々も紹介された。ドイツから帰国中の加藤政幸さん、加藤さんと同様にギリア先生の教えをかつて受けた渡部延男さん、大萩康司くん、イタリア出身のエルマンノ・ボッティリエーリさん、など。受講生以外にも沢山の方々と交流ができることもこういったセミナーの魅力である。

 この日の夜、AOIでギリア先生のコンサートが行われた。受講生は特別席を用意され、私は一番前のほぼまん中。素晴らしいホール!!である。プログラムはポンセの「ソナタ第3番」が「南のソナチネ」に変更になった。演奏は札幌で聞いたのより素晴らしく、ブラボー!!!

2002年8月21日〜24日

 いよいよ講習会が始まった。受講生は受講曲によって、バロック、古典ロマン、近現代ラテン、現代、と4つのクラスに分けられ、私は現代曲クラスであった。福田先生のレッスンは朝10時から、ギリア先生のレッスンは午後1時からというタイムテーブルで連日行われた。ギリア先生は非常に高い音楽レベルを受講生に要求する。いくらその場で頑張ってもとうてい先生の要求には答えられない場合であっても、妥協しない厳しいレッスンである。ほんのワンフレーズだけでも、なんとか理解し弾けるようになるまで先へ進まない。

 ヨーロッパの先生は「来週までにここを直して来てね」とは言わない。「今、やりなさい」と言う。そして出来なければいけないのだ。今、この場で何が何でも先生の要求通りに弾いてやろう、という熱意が伝わってくる人に対しては、先生も熱心になって下さるし、そうではない人に対しては先生も然りである。また、何を要求されているのか理解していないにも関わらず、わかったような顔をしてしまうと大変な結果になる。「では、やってごらん」と言われてやってみるけど何も変わっていない。「わかってないんじゃないか!!」ということになり、先生はいらいらしてくる。怒りを爆発させたいのをぐっとこらえている様子がよくわかる。わからなければ「わかりません」と言った方がいい、わかったふりをするのが一番良くない。こういったアドバイスを福田先生が何人かの学生に与えていた。レッスンは受け身ではいけない、というお話であった。

 福田先生のレッスンはギリア先生とは違った切り口で行われ、それが大変興味深い内容だった。ギリア先生はテクニックのことを指摘しない。福田先生は皆がギリア先生に要求されたことを実現するにはどういうテクニックや理解が必要かを教えた。また、各人に今後、どういう方向で勉強して行ったら良いか、指針を与えていた。レッスンも大変なのに毎日皆をいろんな所へ連れて行って下さり、私達は毎日退屈することなく過ごすことができた。先生の奥様も毎日差し入れをして下さり、私達はなに不自由無く演奏や練習、聴講に専念できる環境にあった。

 私は最終日にギリア先生のレッスンを受けた。ブローウェルの「ソナタ」をテデスコの「ソナタ」に変えたいことを伝えた。「アア、ソウデスカァ」と言って了承して下さり、まず1楽章を演奏。続けなさい、というゼスチャーがあり4楽章まで弾いた。弾き終わると、ぱたんと楽譜を閉じ、「ブローウェルヲキキタイデスネェ」とおっしゃる。「はあ、そうですかぁ」と私もギリア先生の口調になりながら楽譜を取りにいき、全楽章通して弾いた。「コレ、イイデスネェー」と言ってレッスンが始まった。もっと野蛮に演奏するようにアドバイスされた。最後に「あのー先生、テデスコはどうですかねぇ?」とせまり、簡単に2こと3こと助言して頂いた。これ以上強く出せない程音を出しているつもりなのだが、「ff!!」と大声でどなられ必死に大きな音を出す。これをくり返していると、体中汗びっしょりになるくらい熱くなり疲れた。でも、先生の熱意が伝わって来てすばらしいレッスンを体験できた。ちょっと難しい単語で分からなかった部分も通訳の方が適切な解説をして下さり、助けて下さった。
            
              「レッスン中、オスカー・ギリア氏と」
  
 8月24日、全員のレッスンが終了し、夕方、優秀生の発表が福田先生とギリア先生により行われた。5人選びました、とはじめに告げられ、受講生全員が少しどきどきした瞬間だったと思う。「第5位から発表します」といわれ、まるでコンクールの結果発表のようだった。結果は以下の通り。

    1位 宮下祥子
    2位 村治奏一
    3位 池田慎司
    4位 徳永真一郎
    5位 朴葵姫(韓国)

 中島晴美さん率いる東京ギターアンサンブルが25日のガラコンサートでA.ヨークの「アティック」を演奏することになっていたが、メンバーに欠員があり、数人の受講生が助っ人として加わることになった。私は第5パートを担当。23、24日と福田先生の指導のもと、2日間練習してなんとかアンサンブルがまとまった。

2002年8月25日

閉会式

 AOIのステージ上で一人ずつ、修了証書をギリア先生から手渡しされた。私だけ遅刻して、ギリア先生に「イツモ、オソイ!」と冗談を言われた。受講生の皆さん、すみませんでした。

スーパーギターコンサート

 早くからチケットが完売となっていた。やはり出演者の顔ぶれが今話題の人達だからだろう。

まず、受講生のソロ演奏で始まった
私は5人の最後にブローウェルのソナタの第3楽章を演奏。その後、大萩康司くん、鈴木大介くん、村治佳織さん、加藤政幸さん、そして、ギリシャのエレナ・パパンドレオウさん。彼女は福田先生いわく、女流では世界最高のギタリスト。(ナクソクからCD出てます)お互いの演奏を舞台袖で皆で踊りながら聞いていた。大変楽しく、それぞれの実力を認め合いながら演奏に耳を傾けていたという感じである。

休憩後は
福田先生と大萩くん、鈴木くんと大萩くん、鈴木くんと村治佳織さん、などなどいろいろな組み合わせでDUOが繰り広げられた。

第3部は
先述のアンサンブルの「アティック」やカルテット、クインテットなど、全体で3時間に及ぶコンサートの締めくくりとしてふさわしい、華やかな演奏だった。

終演後は
関係者、セミナー参加者など出席して大きなレセプションが行われた。大変もりあがり、そのままさようならと解散するはずもなく、2次会、3次会とつづいた。いや、4次会もだったかな。。。

 沢山の優秀な若い世代の演奏に接して、演奏者としても教育する立場の人間としても良い刺激になった。沢山の人がギターに打ち込んでいる姿を目にして、幸せな時間だった。皆真剣そのものだったし、ギリア先生の誰に対してもレベルを落とさない姿勢に答えようとして必死にならざるを得なかったのだ。こういう経験をさせて下さった福田先生にまず、心から感謝の気持をお伝えしたい。私が想像していた以上に多くの価値あるものを得ることができた。AOIのスタッフの皆様にも心から「お疲れさま!そしてお世話になりました」とお伝えしたい。

〔北海道新聞社からのインタビュー]

 宮下さんが、北海道新聞社から取材を受けました。このときの様子を伺いました。
 8月30日に、北海道新聞社文化部記者の方から、静岡のこととモンテビデオのことで1時間程でしたが、熱心に取材をして頂きました。これまでの経緯を説明するために、昨年オランダへ行ったことやら、いろいろお話しました。記者の方があらかじめ私のホームページを見て下さっていたので、 取材の進み具合が話が早かったようです。

取材の内容については、 2002年9月19日(木曜日)北海道新聞の夕刊に掲載されました。

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