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セカンドCD制作への道
その1
 私のセカンドCD「ヴィルトゥオーゾ」の録音が終わった。2年ごとにCD1枚リリース、という目標を何とか年内に達成できそうだ。今回のCDは全曲19世紀のギターのためのオリジナル作品で占められる。

 19世紀に使われていたギターで当時の作品を演奏するCDが数多く世に出回っているが、収録にはモダーンギターを使用するという決断に至った。この点についてはCDのブックレットをご覧頂きたい。
 19世紀ギターの名手でもあるギタリスト、パヴェル・シュタイドルとのデュオを夢見たのはかれこれ3年ほど前である。今や世界で最も忙しいギタリストといっても過言ではないシュタイドルと2重奏をしようだなんて、そんな夢のまた夢とも思えたことが今回実現してしまった。

 手紙と楽譜を送って返事を待つこと2年。「It should be nice!」という返事をやっと頂き、 その後録音の日程を調整するのに1年。今年の元旦から1週間なら時間が取れるという連絡があり、この機会を逃すまいとすぐに航空券を購入した。「もう買っちゃったから!絶対行きますから!」と伝えた。

 しかし母の手術という思いがけない事態になり、母が退院したのが出発予定の2週間前だった。体力が回復していない状態の母を家に残しチェコへ飛んでいくというわけにはいかない、と諦めていたのだが、「是非行って成功させて欲しい」という母の言葉に甘えて、元旦に成田空港へ向かった。元気だった父が空港で見送ってくれたのを昨日のことのように思い出す。
 チェコへ到着してから2日間は缶詰状態で二人で練習した。シュタイドルの注文通りに弾くことが出来なくて半べそかきそうにもなったが、充実した時間だった。最後には「お前は伴奏が上手い!」と褒められた。

 シュタイドルが使用している楽器はブラジルのセルジオ・アブリュウ、なかなかつやのある音の楽器であった。プラハのスタジオはこれまでミラン・ゼレンカやウラジミール・ミクルカなどチェコが生んだ名ギタリスト達も録音している。スタジオの所有者はシュタイドルの古くからの友人でもあり、ドボルザークさんという。なんだか歌舞伎役者のような風貌だが静かで温かい目をした人で、優しく出迎えてくれた。猫アレルギーの私を気遣って、すぐさま飼い猫を外に追いやってくれたあたりがまず気に入った。

 スタジオと宿泊のための部屋が一つの棟にあり、泊り込んで2日間で録音することになっていた。さて、録音が早速はじまるのかな、と思ったら、まずは珈琲でも、ということでおしゃべりタイム。久しぶりに再会したらしいチェコ人同士は話題が尽きない。ついに「いつになったら始めるんですか!」といらいらして言ってしまった。「お前、弾けてるんだからそんなに神経質にならなくたっていいじゃんか」とたしなめられ、ああ、私ってなんて真面目で仕事熱心なんだろうか、とつくづく自分が日本人であることを誇りに思ってしまった。

 一人だけ先にスタジオに入り練習を始めた。私にとってはほんの2度目の録音であり、かなり緊張していたのだ。ややあってから皆さんも準備開始。かくして過酷な録音が始まった。
その2
 二重奏の収録曲はギターファンにおなじみのソル作曲の「ファンタジー」、同じくソルのめったに演奏されることのない「ディベルティメント作品61−1」の2曲で、 計およそ20分弱だ。録音は一日で終わるだろうと甘く考えていたが、一日中かけて「ファンタジー」1曲しか録音できなかった。10分以上ある作品ではあるが、まさか一日がかりだとは思ってもみなかった。

 フレーズ毎のアーティキュレーションをどうするか、間の取り方、デュナーミクはこういう解釈もあるんじゃない?など次々とアイディアが出てくる。時間をかければかけるほど新たな考えが浮かんできてどんどん音楽の表情が変わっていった。いつも通りの弾き方でただ1回弾いて終わり、というのではなく、現場で創造するという作業だ。おもしろいけれどしんどかった。
 2日目の小品の録音は前日よりずっと楽に終わるに違いないと思っていた。が、音の少ない曲だけに、曲作りのアイディアは泉のように湧き出てくるもので、予想以上に時間をかけた丁寧な録音となった。テイクの度に違う風に演奏するシュタイドルを伴奏するのは難しくて、「そんなにいつも違っていたら私は合わせられません!」と歯向かってみた。すると「毎回同じように弾くなんてできっか!アンサンブルってのは、さあ、こう弾くからね、って打ち合わせてやるもんじゃない。こことここで、ぴぴーっと感じあってやるもんだ!」と人差し指でおでことおでこを指差した。

 むむむ・・・確かにそうだよな〜。私は楽譜から目を離しシュタイドルをじっと見ながら伴奏することにした。次第に相手がどう来るかを察して合わせられるようになっていった。こうして2日目は昼過ぎに録音が終了した。
 帰国後、プラハから送られてきたマスターを聞いた。やっぱり相手は上手い!けど私も負けていないかな。私達が音楽を楽しんで演奏しているのがよく伝わってくる内容に仕上がっていた。

つづく お楽しみに!!
                          
CD録音風景

プラハでの録音時の様子を掲載しましたのでどうぞご覧下さい。

二人で準備中

準備中のシュタイドル氏
 
2重奏で共演した
パヴェル・シュタイドル氏(右)、

プロデューサーの
ドヴォルザーク氏(左)

DISCOGRAPHY
essay
Discography